2021.12.6 share

SDGs

もっとストーリーテリングを:クリエイティブはいかにグローバルチェンジを牽引するのか
Global Citizen

 国連副事務総長のアミナ・J・モハメド氏は訴える。「パンデミックは尋常ならざる試練だ。弱者がもっとも影響を受ける。我々はSDGsの約束=写真=を守るため再び努力する必要がある」。貧困問題の解決を目指す国際団体「グローバル・シチズン」主催のこのセミナーでは、Googleのベサニー・プール氏(グローバル広告マーケティング・マネージングディレクター)らをゲストに迎え、「ブランドがより公平で持続可能、そして包摂的な社会の実現に寄与できることは何か?」というテーマでセッションが行われた。

 グローバル・シチズンとGoogleは現在、世界の貧困に対してアクションを起こすパートナーシップを締結している。世界各国の10の広告代理店も巻きこみ、「映像制作などを通してグローバル・シチズンの物語を伝え、グーグルのプロダクトも活用しながら、世界を変えるアクションへと人々を誘っている」とプール氏。

 パンデミックが貧困や食糧問題の引き金になると警鐘を鳴らす動画キャンペーン「みんなのためにコロナを終わらせろ」(ブラジル)や、「食糧危機を終わらせろ」(インド)、教育の重要性を訴える「学びを再開しよう」(イギリス)、気候変動の脅威を呼びかける「この星を守れ」(アメリカ)など、この1年にも数々のプロジェクトが実施された。

 Googleとの取り組みを紹介した後、グローバル・シチズンのサラ・エイサー氏(社会貢献とパートナーシップのグローバルヘッド)はこう話した。「2030年までにSDGsの目標を達成することは簡単な話ではない。複雑な目標をひとつのキャンペーンで説明できるものでもない。しかし、よりよい世界を目指し、極度の貧困を終わらせるためのポテンシャルが、ストーリーテリングや創造性には備わっている」。モハメド氏(国連副事務総長)は、「グローバル・シチズンと協働することで、(広告業界の人々も)世界には見捨てられる人が存在してはならないことに気づくだろう」と締めくくった。


ブランディング

あなた自身であり続ける方法(しかし、よいやり方で)
Burger King/Jones Knowles Ritchie

 バーガーキングがロゴをリニューアル! そのニュースは瞬く間に全米を駆け巡った。同社は例年、そのオモシロ広告さながらの、人を食ったユーモラスなセミナーを開催することで知られる。今年のキーノートは、“世紀のロゴ刷新”の顛末(てんまつ)をリポートする内容。プロジェクトを主導した4人の女性が登場する=写真。

 「このブランドはこの10年、とんでもなく勇敢でリスキーなことをやってのけてきた。今回のプロジェクトは、バーガーキングの魂をまとめる壮大なものになるだろうと思った」。そう語るのはCI戦略とロゴデザインを手がけたジョーンズ・ノウルズ・リッチーのCEO、サラ・ハイマン氏。

 一方、同社のECD(エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)、リサ・スミス氏は「バーガーキングではこれまで商品表示の際に、統一感に乏しいデザインや色、書体が使われていて……視認性を考えると“less is better”なんだけど」と当初の戸惑いを打ち明ける。スミス氏は創業からのバーガーキング広告史を学ぶことから作業を始めた。

 「このリニューアルの目的は、たんに楽しいデザイン体験を提供するのではなく、ブランドのエッセンスを全世界の店舗からパッケージ、広告、アプリにまで一貫すること」。そう語るのはパルマ・アズレー氏(バーガーキング・ポパイ&ティム・ホートンズ/グローバルCBO)。

 様々なリサーチと検証を繰り返した結果、彼女らはついに決心する。「1999年まで使用していた古いロゴに回帰する」。そこにブランドの“コア”が存在するとの結論だった。顧客に記憶だけでバーガーキングのロゴを描いてもらう調査を行った際も、多くの人が昔のロゴを思い出していた。

 「ヘアカットに行って眉を整えてもらっても、何が変わったのかわからない。でも、心持ち良くなっている。それと同じで多少は(現代風に洗練されたデザインに)変わった」。エリー・ドリー氏(バーガーキング北米CMO)はそう言って笑いを誘った。


データ

まさに革命。知能型クリエイティブの時代へ
VidMob

 マーケティング業界がデジタルに適応するにつれ、静かな革命が生じている。我々は「知能型クリエイティブ」の時代へ向かっている。いまや問題は「広告が機能しているのか?」ではない。「広告が機能している(機能していない)のはなぜか?」ということだ。

 このセミナーでは、クリエイティブ・データ解析の先駆者「ビドモブ」のCEO、アレックス・コルマー氏=写真左=が、 MITのシナン・アラル教授=写真右=をゲストに迎え、関係者の証言も交えながら「データ技術の進化は、効果的なクリエイティブを生み出せるか?」というテーマに切り込んだ。

 アラル氏によれば、現在は知能型クリエイティブへの移行期に当たる。マーケティング業界はこの20年、ターゲティング技術への依存を深めてきたが、米国やEUにおけるプライバシー規制の導入などで、IT企業の王者たちもクッキー利用からの撤退を余儀なくされている。そしてブランドは、広告やコンテンツ自体、つまりクリエイティブの最適化への関心を高める。それは“最後のフロンティア”だ。

 だが、課題もある。アラル氏の研究チームでは、6つのプラットフォームと20の業界セグメントを横断し、9万の動画広告(1兆インプレッション)を機械学習した人工知能(AI)で解析。「コピー」「会話」「表情」「セレブ」「ロケーション」などの要素を抽出して分析したが、エンゲージメントの結果には“不均一性”が見られた。つまり「どんなクリエイティブがどう効くか?」の科学的エビデンスはいまだ得られていない。

 最後にコルマー氏が「マーケティングの未来を知りたい。知能型クリエイティブがインパクトを持つためには?」と尋ねると、アラル氏はこう回答した。「これは単に広告やマーケティング業界の課題ではない。アートやコンテンツ領域のテーマだ。データは創造のプロセスを強化するツールとなり、感情や認知に迫るためのスーパーパワーを与えるだろう」

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