2021.12.6 share

マーケティング

マーケティング産業はミドルの危機を迎えているのか?
PHD

 衝動的な意思決定、不貞への疑惑、他人との絶え間ない比較——こうした症状に思い当たる節がある業界人は、ミドルの危機に直面しているのかもしれない。メディアカンパニー、PHDによるセミナーでは、同社の戦略&メディアプランニング・ディレクターのマーク・ホールデン氏とロンドン・ビジネス・スクール教授のマーク・リトソン氏が、危機の原因を考える。

 セミナーの冒頭では、倦怠期を迎えた夫婦がカウンセリングを受けている再現ドラマ風の映像が流される=写真。夫の名は「コンシューマー」で妻の名は「マーケター」。夫は「近ごろ、妻は僕のことを理解してくれない。本当の僕を見ていないんだ」とセラピストに訴えるが、妻は妻で「私は近ごろ、拒絶されているように感じる」と夫の浮気を疑っている。

 この映像で、マーケティング業界が抱える課題を分かりやすく戯画化して見せた後、ホールデン氏がリトソン氏に質問。「私たち自身、中年期には様々な問題を経験するように、マーケティング業界もその発展を困難にする課題を抱えている可能性がある。もし、そうであるならば、その兆候はなんだろう?」

 リトソン氏はこう回答した。「私たちはかなり長い間、その危機に直面してきた。症状は明らかで、それはミドルどころか若いマーケターにも広がっている。私は数年前に2つの造語を考えた。最初の症状は『タクティフィケーション』。つまり、マーケティング戦術への強迫観念だ。市場へのヒアリングや深い洞察、戦略的思考を犠牲にして、あり合わせの戦術で課題を解決しようとしてしまう。 2つめが『コミュニフィケーション』。テクニカルな戦術を組み合わせただけの近視眼的な広告キャンペーンが増えている」

 ホールデン氏は「今では多くの産業が倦怠期に陥っている。短期的な成果しか生み出さない意思決定や顧客への不信感、競合他社との過剰な比較からの『シフト』にこそチャンスがある」とセッションを締めくくった。


ヘルスケア

文化における健康コンテンツ
Havas Health & You

 2020年。ヘルスケアや医療系のブランドの中には、パンデミックの状況下で世界的認知を獲得したものもある。健康がこれほど人々の話題に上ったのは人類史上初かもしれない。医療従事者の中には、インフルエンサーとして活躍する人もいる。一方で健康産業のブランドは、医療に関する大量のフェイク情報に悩まされてもいる。

 Havas Health&Youのセミナーでは、同社のCCO(チーフ・コンテンツ・オフィサー)を務めるラーズ・ベングストン氏ほか、TikTokで活躍する3人のインフルエンサーが「健康とブランド、カルチャー」をテーマにプレゼンテーションを行った。

 ベングストン氏は、健康に関するコンテンツをシェアする際に最も重視されるのは、「バリュー・ファースト」だと語る。診療看護師であり、ティックトッカーとしても活躍するクリスティアーナ・キム氏は、ワクチンの有効性をユーモラスに伝える動画などが話題に=写真。自ら情報発信した動機を「コロナやマスクに関して、明らかな誤情報と思われる鬱陶しいコンテンツをSNS上でたくさん見かけたから」と語った。

 薬剤師であるサバンナ・スパークス氏も「非科学的な情報の氾濫が私を後押しした」とコメント。それに対して、本業が俳優兼映像作家のヴィック・クリシュナ氏は、「友人たちの間に広まっていた無力感や混乱をなんとかしたかった」と言う。

 ヘルスケアのコンテンツに求められることを問われてキム氏は、「エビデンスとデータに基づいており正確である必要がある。それが私たちにとっての義務だ」と述べた。ベングストン氏はセッションの最後に「人は癒したいし、癒されたい。あなたにはその力がある。視聴者は本物を求めており、本質的な価値を語るブランドに期待している。(このパンデミックの中で)私はヘルスケアブランドの未来に希望を感じた」と語った。


バイラル

逆さま:TikTokはいかにコマースをボトムからかき回しているのか
TikTok

 「バイラル」(口コミで拡散していく)という言葉には長年、汚れたイメージが付きまとっていた。SNSで多くのブランドがひと山当てに行って失敗したせいだ。本来バイラルとはユーザー(クリエイター)側の動きから始まる。つまり、カルチャーが先でコマースは後からついてくる。そこが逆になると、世間の共感は得られない。

 そして今、プラットフォームはカルチャーとコマースを再び“逆さま”にする力を取り戻しつつある。グローバルにシェアされる「#TikTokMadeMeBuyIt」ではあらゆるものが売れる。TikTokトレンドはどのように生まれるのか。 このセミナーでは企業とTikTokのマーケティング担当者(計11人)が、4つの“ボトムアップ事例”を紹介した。


 最も重要なキーワードは「リアル」と「オーセンティック」。米スキンケアブランド「イオス」のシェイビングクリームは、TikTokでバイラルしたが、きっかけはあるティーンエイジャーの投稿で語られた実感レビューを商品名に取り入れたことだった。それは「F」から始まる禁句を連想させるネーミングだが、一連の施策でECサイトからの売り上げは25倍に。

 同社のCMOソヨン・カン氏は、このユーザーの投稿が楽しいだけでなく、そこに「教育的価値を見出した」ことで彼女とのコラボレーションを決めたと語る。その動画では学校では教えてくれない正しいシェイビングのやり方が解説されていた=写真。

 TikTokではマーケティング担当者も意図せざる“ボトムアップ”が生じるケースもある。ドイツでは、ボルヴィックがリリースする有機ハイビスカス・ティーとベリー系果物などでつくるドリンク「#PinkDrink 」のレシピが大流行。

 ボルヴィックドイツのCMO、アントワーヌ・アーワーズ氏は、「まさに“オーガニック”な施策。こんなことは初めてだ。増産を急いだが、どの店でも売り切れの時期があった」と振り返る。

 このほか、アパレルブランド「アメリカン・イーグル」(米国)やアイスクリーム「リトル・ムーン」(イギリス)によるTikoTok活用事例も紹介されていた。

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