2022.10.20 share

 カンヌライオンズのもう一つの見どころは、会期中に複数の会場で開かれる多種多様なセミナーだ。グローバル展開する広告代理店や世界的なクライアント企業が広告コミュニケーションのトレンドとなるトピックについて発信するほか、著名人が登壇し参加者にメッセージを訴えかける場面も。

ウクライナ支援や女子教育
参加者に理解訴え

 カンヌライオンズは、世界各国から集まる参加者に支援を訴える格好の場となっている。メイン会場ルミエールシアターのオープニングとなるセッションでは、ロシアの民主活動家で元チェス世界王者のガルリ・カスパロフ氏がウクライナ侵攻に対し「クリエイティビティの力」で戦うよう呼び掛けた。ウクライナの広告会社などからもスピーカーが登壇。侵攻開始後の取り組みなどを伝え、同国のゼレンスキー大統領がビデオメッセージを寄せた。

 ウクライナの広告会社大手、バンダ・エージェンシーの共同オーナーであるパーシャ・ボルジェッシュ氏は、日本経済新聞の取材に対し、「クリエイティビティには人々を巻き込むエネルギーがある。企業のオーナーはこの力を集めてほしい」と語った。

 会期4日目の23日に登場したノーベル平和賞受賞者、マララ・ユスフザイさんは今年、世界に優れた変化をもたらした人や団体に贈られる「ライオンハート賞」を受賞。「女子教育は、収入格差や気候変動、どのように貧困を減らすかといった問題に取り組む手助けとなる」と参加者に語りかけた。

メタバース
「分身」にリアリティー

 今年のカンヌライオンズは仮想空間「メタバース」関連の応募作も多かった。有名企業のメタバースに携わる、米ニューヨーク拠点のデジタル広告会社、R/GAが開催したセッション「あなたはメタバースで誰になりたい?」には多数の観衆が集まり、最前線の動きについて耳を傾けた。

 セッションでは、大型スクリーンにコンピューターグラフィックでアバター(メタバースなどでの自分の分身)にふんした同社のグローバル・チーフ・ストラテジー・オフィサー、トム・モートン氏が映し出されてプレゼンテーション。多くの人が自分のアバターにリアリティーや愛着を持っていることを示し、企業などはメタバースで消費者の自分らしい選択やその背景を知ることができるとした。

 同社のグローバル・チーフ・クリエーティブ・オフィサーのティファニー・ロルフ氏は、米ギター大手フェンダーのメタバースを例にとり、「ここはギターがなくても弾き始められる世界で、同社は初心者たちにつながることができる。バーチャルな世界は現実世界にある垣根を壊す」と説いた。

P&GのCBO
「創造性は成長の力」

 毎年多くの聴衆を集めるのは、米P&Gのチーフ・ブランド・オフィサー、マーク・プリチャード氏のセミナーだ。今回は「成長のための力としてのクリエイティビティ」と題し、同社の様々なブランドのCM映像を織り交ぜながら、「クリエイティビティは経済的な成長の力になり、経済的成長が地球の社会を良くしていく」と力を込めた。

 プリチャード氏はクリエイティビティで重視しているポイントとして、①個人的な感覚を持つこと②商品の機能や使い勝手を伝えること③信頼できるパートナーシップを築くという3点を指摘。
同社のオムツブランド「パンパース」では、出産予定日の計算や、赤ちゃんの名前の作成ができるインターネットサイトを提供し、親になる消費者と信頼関係を育むことを狙う。洗剤の「タイド」は、大量のユニフォームを洗うアメリカンフットボールの選手を起用し、冷水で洗濯でき消費電力が少なく済むことをコミカルにPRしているという。「クリエイティビティは旺盛な成長につながり、物事をより良くできる」と強調した。