2021.11.18 share

ANA X
末永 千絵(すえなが ちえ)
デジタルマーケティング部コンテンツ企画チーム

2002年法政大学法学部卒業。同年全日本空輸入社。国内線・国際線旅客部に所属し、羽田空港でグランドスタッフとしてANA・受託航空会社のハンドリングを行う。2018年マーケティング室宣伝部へ異動。主にアジア・オセアニアを担当。2021年よりANA Xへ出向し、現職。 

遊びと学びが一体となったゲーム

 2020/21カンヌライオンズで、ANAの「GAME CHRONICLE」がエンターテインメント部門でブロンズを受賞した。当社は、外国人観光客向けにもっと日本のことを知ってもらおうと、「IS JAPAN COOL?」というサイト(英語・中国語)を開設している。GAME CHRONICLEはそのサイト内のコンテンツの1つとして制作したものだ。現在はANAのグループ会社でデジタルチャネルの企画・運営を担当しているANA Xが当サイトを管理している。 

 GAME CHRONICLEは1980年代、90年代、2000年代、10年代の4つの時代を象徴する日本のゲームの歴史を100のトピックで紹介している。 

 ウェブサイト自体がゲーム仕立てとなっており、楽しみながら日本のゲームカルチャーを体験できるようになっている。遊びと学びが一体となったオンラインゲームと言える。 

 ゲームのステージが進むごとに、時代の技術的なグラフィックの変化も体感できる。ゲームの歴史を紐解く重要人物として、総勢11名のゲーム界のレジェンドの方々に出演していただき、世界で愛されるゲームの魅力の本質をインタビュー動画で解き明かしていった。 

 また、海外のお客様が日本を訪れた際に旅して回れるように、ゲームにちなんだ場所や、アクティビティ体験を紹介しているページもある。日本に行ってみたいと思ってもらえるようなコンテンツを設計している。 

海外向けの日本紹介プロジェクト

 IS JAPAN COOL? は、ANAによる海外向け日本紹介プロジェクトとして、2012年にスタートした。東日本大震災の翌年に当たり、日本にとってはネガティブなニュースが世界に伝えられ、日本への旅行者数が減っている時期だった。「航空会社として何かできないのか」という思いが出発点だった。そして、海外でのANAの知名度を上げることも目的としている。「Inspiration of JAPAN」というブランドタグラインを掲げて、日本のカルチャーを取り上げた。これは企業ブランディングでもあり、日本の価値を知っていただく狙いもあるプロジェクトだ。だから、当社の商品やサービスを直接的にアピールするものではない。 

 プロジェクトでは、日本の魅力をさまざまな角度から伝えてきた。サイトの立ち上げ当初から猿人 ENJIN TOKYOに制作を依頼。15年からは野村志郎さんにクリエイティブを担当してもらっている。おかげさまで、高い評価をいただき、さまざまな賞を受賞している。

※クリックしたら拡大します。

ブランドタグラインとゲームが一致

 ANAのブランドタグラインのInspiration of JAPANには、Sparkling(楽しさ・わくわく感)・Caring(寄り添う心)・Japan Quality(日本が誇る基本品質)の3つの要素が込められている。今までのIS JAPAN COOL? では、芸術や伝統をモチーフとしていた。 

 しかし、今回は斬新な切り口を模索した結果、ゲームというテーマが挙がってきた。お客様に感じてほしいANAならではのブランド価値である「楽しさやわくわく感」が、ゲームというテーマと一致するのではないかと考えたからである。 

評価がさらなるリーチにつながる

 カンヌライオンズは国際的なクリエイティブの祭典なので、そこで評価されれば、通常の広告宣伝活動ではリーチしにくい海外の「情報感度が高い方」やクリエイターなどともつながりが得られる。その点が最大のメリットだと考えている。 

 IS JAPAN COOL?のコンテンツは、カンヌライオンズに毎回出品するようにしている。そのためというわけではないが、お客様に注目してもらえるように、しっかり内容を理解してもらえるコンテンツづくりをいつも心掛けている。 

 今回、カンヌでブロンズを受賞したことは、当社のホームページとSNSで発信した。海外だけではなく、日本のお客様にも受賞作品を知ってもらう狙いがあった。SNSで発信することにより、結果的に幅広いお客様にGAME CHRONICLEとANAのブランドタグラインを認知していただけたと思っている。 

 今後も「楽しさやわくわく感」を感じてもらえるコンテンツを制作していこうと考えている。コロナ禍が収まったら、ぜひ現地で開催されるカンヌライオンズにも参加してみたい。

クリエイターから

受賞作はアイデアの教科書、マーケターも刺激

猿人 ENJIN TOKYO
野村 志郎(のむら しろう)
クリエイティブディレクター

「面白いアイデア」で、先進的な映像作品やインタラクティブな体験を生み出すクリエイティブディレクター。世界三大広告賞のカンヌライオンズ、ONE SHOW、アジア最大級の広告賞SPIKES ASIAグランプリ、ADFEST、AD STARS、CODE AWARDベストクラフト賞など、6年連続で国際広告賞を受賞している。  

ゲームを「カルチャー」として捉える

 「IS JAPAN COOL? 」プロジェクトは東日本大震災の翌年の2012年に、「航空会社として何かできることはないか」というANAの想いから始まった。日本の旅の魅力をもう一度世界に向けて伝えていくことを考えた。アートや祭り、和食、道、日本の職人など、日本のカルチャーの中から、毎年1~2個のテーマを切り口にしてきた。文化としての幅と深みを大事にしているプロジェクトといえる。 

 カンヌの受賞作「GAME CHRONICLE」は、世界中で愛されているビデオゲームを切り口にした。ゲームを産業ではなく、カルチャーとして捉えたのである。どういうカルチャーを切り口にすれば海外の人に喜んでもらえるかを考えながら、アイデアを出して、ゲームの年代史を作った。 

 ゲーム仕立てにして、たとえ言語の壁があっても感覚的に理解でき、楽しみながら学んでもらうことを狙った。1980年代から順に、年代ごとの技術レベルも再現し、進化も体感できるようにした。音楽もそのときの技術レベルで再現している。制作には約50社のゲームメーカーに協力いただき、日本のゲーム業界が集結したことが非常に評価された。 

 13年には、IS JAPAN COOL? を見た東京五輪・パラリンピック招致委員会から、招致のためのプレゼンテーション用に動画を数本作成してほしいという依頼があった。プロジェクトの内容をベースに、タイトルも同じ動画を制作した。 

「企画」「戦略」「表現」「結果」を考える

 私たち広告クリエイターにとってカンヌライオンズは、「年に1回、クリエイティブの大きな方向性が示される場」のようなものだ。 

 最近カンヌでは、「社会の認識をどう変えたか」ということも審査基準に入っている。今やマーケティング課題だけではなく事業課題の領域にまで広がっている。クリエイティブに携わる者として、「企画」「戦略」「表現」「結果」を考えていかなければならないと、カンヌから教えられた。 

 15年には、実際に現地も訪ねている。昼間はずっとセミナーに参加したが、その年の新しいトレンドや広告の手法、新しいテクノロジーなどの話が聞けた。国内で仕事をしているだけは聞けない話で、非常に刺激的で、面白い内容だった。 

 受賞作品はクリエイターにとっての教科書のようなもので、非常に勉強になっている。私は時間を見つけては、興味がある部門の事例を見ている。 

 クリエイターは普段インプットする場が限られている。カンヌライオンズはエッジが効いて際立ったものが集まっている。しかも、日本にはないような広告や事例がたくさん出品される。そういった作品を浴びるように見ることが勉強になっている。 

 広告主は、カンヌライオンズに興味がある方とない方にはっきり分かれているようだ。興味のある方は、「近しい業界の事例を紹介しましょうか」と声をかけ、勉強会を開催すると、非常に喜んでもらえる。宣伝やマーケティングのお仕事をされている方にとっても、カンヌライオンズは刺激になるもので、クリエイターだけのものではないと思う。 

 確かに、部門も多く、英語なので最初はとっつきにくい。解説しているウェブサイト、雑誌などの仲介役を通してカンヌライオンズを見ると、初心者でも理解しやすいだろう。