2021.11.5 share
Question⑤
2021年のカンヌでは、クリエイティブ・ビジネス・トランフォーメーション部門が新設されました。この部門あるいは、ここ数年の新設部門について解説してください。

 カンヌライオンズでは近年、新しい部門(ライオン)を積極的に立ち上げています。2018~2021年を振り返っても、以下の部門が新設されました。
●2018年:「SDGs部門」「クリエイティブeコマース部門」「ソーシャル・インフルエンサー部門」「インダストリー・クラフト部門」の4カテゴリー。
●2019年:「クリエイティブ・ストラテジー部門」。
●2021年:「クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション部門」。

 「SDGs」や「Eコマース」「インフルエンサー」など、その時々のマーケティング業界で話題になっているトピックを、新部門としていち早く取り入れていることが見て取れます。

 そして直近のカンヌの関心は「ストラテジー」や「ビジネス・トランスフォーメーション」の領域にあるようです。

 両部門はどのような意図で新設されたのか。フェスティバルの公式ガイドでは、以下のように説明されています。

 クリエイティブ・ストラテジー部門:ブランドを再定義し、ビジネスを再発明することで、消費者や文化に影響を与えた戦略的施策(アイデアの奥にあるアイデア)を評価する。エントリーに際しては、ビジネス・ブランドに対する深い解釈、ブレイクスルーや課題解決をもたらした革新的かつ創造的な戦略を示す必要がある。

 クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション部門:ビジネスの組織化、人々の働き方、顧客との関わり方を変える創造的思考により、ビジネスを前進させた施策を評価する。新しい製品やサービスの創出につながる発明と、変革を推進する企業の顧客体験および業務を対象に審査を行う。

 こうした公式見解は抽象的な印象も与えます。実際にはどのようなエントリーが評価されているのか。次に両部門でグランプリに選ばれたケーススタディを紹介することで、具体的に解説します。

●Volvo/E.V.A. Initiative(※クリエイティブ・ストラテジー部門の2019年グランプリ)

 自動車運転中の事故で、女性が負傷する確率や死亡率は男性に比べて高いというデータがあります。これに関して、多くの自動車メーカーが衝突安全テストで、成人男性をモデルにしたダミー人形を用いていることが、ひとつの要因として挙げられるのでは、と指摘する科学者も存在するようです。

 そこでボルボは、女性や妊婦をモデルにしたダミー人形を用いた衝突安全テストを行うだけでなく、1970年以降に収集した事故に関するデータを競合他社にもシェアし、自動車業界全体での安全性向上の取り組みに活用できるようにする「E.V.A. Initiative(E.V.A. =Equal Vehicles for All)」を開始しました。

 この施策にはジェンダーを超えて「すべての人に平等なクルマ」というブランドの再定義があり、「安全」という自動車メーカーにとって最重要とも言える価値を、これまでとは異なる深いレイヤー(アイデアの奥にあるアイデア)から見つめ直そうとする革新的視点があります。

 情報を競合他社にオープンにしたところには、業界全体の活性化を志向する戦略性が認められ、サイトやYouTubeで展開されるビジュアルや映像も、デザイン性の高いものが採用されています。

●CARREFOUR/ACT FOR FOOD(※クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション部門の2021年グランプリ)

 カルフールが現在、全社をあげて取り組んでいるプロジェクト「ACT FOR FOOD」。同社は食料品質向上プログラムで6万の農家にファイナンスし、オーガニック・シフトを志す2000の農家に資金面でサポートを行っています。

 ブロックチェーンの技術を駆使して最高レベルの労働生産性を実現、市場で最大のビーガン向けプライベート・ブランドを立ち上げ、食肉加工場ではビデオ監視の義務化も開始(家畜への虐待を防止するため)。

 一連の取り組みにより、カルフールは事業戦略、プロダクト、業務オペレーションを変革しつつあり、世界でのセールスは3.1%上昇。フランスのオーガニック食品業界でのリーディングカンパニーと目されるようになり、生鮮食品のセールスは5%増、オンラインでのセールスにいたっては30%増を達成したとアピールしています。

 カルフールによるこの施策は、クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション部門が意図する「ビジネスの組織化、人々の働き方、顧客との関わり方の変革」を実現し、新しいビジネスの創造に寄与するものであることから、同部門の初代グランプリにふさわしいものだということが分かると思います。

 以上、新設された「クリエイティブ・ストラテジー部門」と「クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション部門」について解説してきました。ここから見て取れるのは、カンヌライオンズがいまや“広告”という枠をはるかに超えた広く、深い領域に進出し、アワードの対象とし始めていることです。

 近年のカンヌでは、ステークホルダー資本主義的な観点からの「ビジネス変革とクリエイティブ」というトピックに関心が集まっており、来年以降の動向も注目されます。