2021.11.5 share
Question④
外部の目、つまり参加者やプレスの目はカンヌライオンズの審査にどんな緊張感をもたらしていますか。

 カンヌライオンズの審査は、タフでシビアなものとして知られています。国や会社によっては、カンヌでの成功・不成功(受賞できるかどうか)が、エントリーチームのメンバーや企業のビジネスの未来を大きく左右することもあるからです。出品者(社)や審査員にとってキャリアをかけた真剣勝負の場となります。

 これまで数多くの日本代表審査員に、審査直後のタイミングで取材してきました。ショートリストを決める予備審査の段階から数百ものエントリーに目を通し、過酷なディスカッションと投票をへて審査を終えた審査員たちには、独特の疲労感と緊張からの解放感が漂っていました。

 「タフでシビア」なのは、審査だけではありません。カンヌライオンズはオーディエンス(参加者)の目も厳しい。世界から集う参加者は、クリエイティブ、マーケティング領域におけるプロフェッショナルだけに目が肥えています。

 ハードな審査が終わり、セレモニーでグランプリをはじめ各賞を発表しても、オーディエンスにとって納得のいかない結果だった場合、会場から大ブーイングが起きることさえあります(あるいは口笛を吹く、足を踏み鳴らす)。

 審査チームが議論を尽くしてもグランプリが選べず、その理由を審査委員長がオーディエンスの前できちんと説明できなかった場合もブーイングです。その年を代表する一作を選出できないような部門には、存在理由がなく、チームも仕事をしていないと見なされるのかもしれません。記者会見で、各国のプレスから投げられる質問も容赦ない直球だったりします。

 かつてに比べて、カンヌのオーディエンスもプレスも行儀がよくなったのか、最近はあまり激しい抗議の風景に接することは少なくなりました。特にオンラインで実施された2021年は静かなものでした。

 しかし、広告を見る目の厳しさは変わっていないのでは? カンヌライオンズでは、オーディエンスやプレスもある意味“審査員”。ほかの審査会のように学識経験者や文化人、タレントなど“第三者”が審査に加わらないのは、こうした現場主義が理由かもしれません。

 審査にみなぎる緊張感が、カンヌが未来に向けてアップデートを続ける原動力になっているのだと思います。