2021.11.5 share
Question③
いったん受賞が決まった作品が、後から取り消されるようなケースはありますか。

 「スキャム」のケースが挙げられます。スキャムとは、賞狙いのフェイク広告、つまり、実際にはテレビで放送されていなかったり、街中や紙媒体、ウェブサイトに掲出されていなかったり、企業の施策として実施されなかった“架空の広告”のことです。

 カンヌライオンズでは過去に、こうした“偽広告”が受賞してしまったケースがあり、実施されていたとしても広告主の許諾なくエントリーされていたケースもあり、その都度炎上事案に発展したことから、スキャム対策には力を入れていると思われます。

 スキャムは恥ずべき行為とされています。「広告主に企画を通す」「社会に向けて実施する」というプロセスを抜きにしてつくられた“作品”は、表現としていかに優れたものであっても、広告としては失格です。スポーツ界におけるドーピングのようなイメージで捉えると分かりやすいかもしれません。

 カンヌライオンズの「公式プレスブック」より、スキャムへのポリシーを紹介しましょう。

 「カンヌライオンズは、あらゆるスキャムに対する告発を非常に真剣に受け止めている。ルール違反が証明されたエントリーは、いかなる理由であれコンペから除外され、受賞などの成果は取り消される。ルールに違反したワークを故意に提出したことが判明した者には、一定期間参加を禁止する場合もある。(中略)

 すべてのエントリーは審査員が目にする前に、専任のアワードマネージャーによって個別にチェックされる。この審査プロセスに合格しなかったエントリーは次のステップに進むことができない」

 上記以外にも細かいルールがあり、厳格な内容となっています。とはいえ、あらゆるスキャムを事前に見抜くのは難しい面があり、審査の際に疑念が浮上するケースもあるようです。

 審査員団は多国籍チームですから、他国で実施された施策については不明な点も多く、疑わしいときはその国の審査員に詳細を尋ねたり、場合によっては審査期間中、広告主や関係者にメールや電話で事実関係を確認したりすることさえあると聞きます。

 この10年はフェスティバル参加者がSNSで、「あのエントリーはスキャムでは?」といったやりとりを交わしているシーンも見かけるようになりました。スキャムに対する目は厳しさを増しています。