2021.3.15 share

カンヌライオンズの“そもそも”論からを皆さんにお伝えしていく連載の第11回目をお届けする。この連載も早いもので、すでにそろそろ1年。次回でいったん終了にする予定だ。今回と次回は、“ビギナーのためのカンヌの過ごし方”。皆さん、ぜひ、カンヌへ!

(多摩美術大学美術学部教授 佐藤 達郎)

一度は行ってみるべし、カンヌはやはり、クリエイティビティの聖地。

この連載を読んでくださっている読者の皆さんの中にも、「そうは言っても、カンヌに行ったことないしな」などと少し引いて読んでいる方もいるかもしれない。しかし、“行く”こと自体は、登録してお金さえ払えば、誰にでも可能だ。別に審査があるわけではない。もちろん少なくないお金だし、会社との関係など簡単ではないだろうけれど、それでも“なんとかして行ってみるべし”と、筆者はお勧めする。いざとなれば、会社からの派遣ではなく費用を自分で用立てる“自腹組”という手もある。そんな自腹組も、少なからず目にしてきた。

Air bnbなどを活用して、アパートメントを借りる手もある

そこまでして行く意味はあるのか? 「ある」と、自信を持ってお答えしよう。なんだかんだ言ってもカンヌライオンズは今も、広告コミュニケーションのワールドカップ、クリエイティビティの聖地だ。そこには、カンヌにしかない独特の世界がある。知識や情報だけであれば、今やデジタルの活用で相当程度手に入れることができる。それでも、“行く意味”はあると思う。あそこは特別な場所だ。若者は奮い立ち、ベテランは“熱い気持ち”を思い出す。おおげさに言えば、日々が変わる。仕事が変わる、自分が変わる、そんな可能性を秘めている。

膨大な情報量と、どう向き合うか?事前の勉強は、必須。

しかし、問題は、フェスティバルの内容が「充実し過ぎている」ということだ。高額な登録料に見合うだけの内容が用意されているのは良いことなのだけれど、しかし、気をつけないと消化不良を起こす。受賞作も見たいし、セミナーも聞きたいし、パーティーも気になるし。オロオロしているうちに、日々が過ぎていってしまいかねない。

前にも書いたが、カンヌライオンズは3つの要素で成り立っている。「受賞作」と「セミナー」と「交流/語り」だ。まずはこの3つのどこにどの程度注力するかを自分なりに決めておこう。「セミナー」の内容は事前にチェックして、特に力を入れて聞くものを幾つかに絞っておいた方が良いだろう。英語の堪能な日本人で、セミナーの内容を同時通訳的にSNSに投稿している人もいるので、参考にする手もある。

会場地下では、小規模なセッションも行われている

「受賞作」で言えば、27部門のうち何部門かに絞って見るのがいいだろう。毎日夜に行われる贈賞式には、ぜひ出席しよう。金賞以上が紹介され、話題作は様々な部門で何度も登壇するので、自然と頭に残る。頭に残ったら事例ビデオなどに少し詳しく当たってみると良い。「交流/語り」も侮れない。英語が苦手な人でも、日本人向けの非公式な集まりも幾つか開催されているので、臆することなく出かけよう。気になった受賞作をきっかけに、広告コミュニケーションやクリエイティビティについて、語り合ってみよう。

“孤立しない”手立てを。できれば、誰か経験者をつかまえておく。

今までカンヌライオンズに社員を派遣していなかった会社が、興味を持ってとりあえず1人派遣してみるか、といった例を、最近わりとよく目にする。カンヌライオンズの対象範囲が広がり、広範な人が参加するのは歓迎すべきことだ。

だが、ここでも問題が一つある。知り合いが皆無の状態で参加してしまうと、下手すると“孤立”してしまうことだ。毎日3食をひとりきりで食べるはめになり、日本人向けの集まりの情報も得られなければ、交流/語りも深まらない。セミナーや受賞作の話題にしても、多くの人にとって自分ひとりで受け止め切れる量や内容ではない。自分としてよく分からなかったところを、誰かに尋ねてみることで、初めて理解できることも少なくない。

現地での、日本人向け勉強会のひとつ

孤立しないための1つの方法は、ツアーに参加して、同じツアーの人と仲良くなることだ。事情でそうもいかない人は、なんらかのツテをたどって、とにかく“カンヌ現地参加経験者”の人をつかまえて、話を聞き、上手く行けば友人知人を紹介してもらおう。現地に行く前の私的事前勉強会みたいなものを開いている人たちもいるので、できれば顔を出してみよう。なんなら自分で事前勉強会を開いて、現地参加経験者の人に講師役で参加してもらうという手もある。いずれにしても、カンヌ現地で孤立しないような手立てを、日本にいるうちに手を尽くしてみよう。

カンヌに行く前からそして行った後も、ひと月くらいはまるまるエネルギーをかけて楽しみ尽くす。それくらいの気持ちでの初参加をお勧めする。

最終日には事務局主催のパーティーも


この連載では10回以上にわたって、「カンヌライオンズ」の歴史と現状について解きほぐしてきた。読者の皆さんそれぞれに、「カンヌライオンズとの正しい付き合い方」が、ある程度は身に付いたことを願っている!

カンヌ近辺で最もポピュラーなお酒は、ロゼワイン