【イチからわかる カンヌライオンズ】 ⑨日本からカンヌに応募する必要があるのか? その意味合いを考えてみましょう。

 カンヌライオンズの“そもそも”論からを皆さんにお伝えしていく連載の第9回目をお届けする。前回と今回の2回にわたって、「カンヌライオンズにおける日本」について取り上げている。前回は、日本勢の成績が実際のところはどうなのかを振り返った。今回は、日本からカンヌライオンズに応募する意味合いについて考えていきたい。

(多摩美術大学美術学部教授 佐藤 達郎)

日本の広告は、国内だけで評価されればいいのか?

 “国内派”とでも呼べそうな人が、一定程度存在する。その方たちが発するのは、「日本で作られる日本人に向けた広告コミュニケーションは、事情の分からない国際賞で評価される必要はなく、日本国内だけで評価されれば十分」という意見だ。この意見は、2つの点で正しくない、と筆者は考える。

 1つは、国際的な評価にさらすことで手に入る“別の視点”の重要性だ。どんな国や社会であれ、長い間閉じた環境にあると、評価や方法論は多様性を失いがちである。同じような表現が続き、挑戦でさえ同方向のチャレンジが続く。しかし、カンヌライオンズのような国際賞では、時に違和感さえ覚えるような“別の視点”を目の当たりにすることができる。こうした刺激が日本の広告界にもたらす変化や進歩は軽視すべきではない。

 2つめは、広告主側におけるグローバル化、そしてメディアのグローバル化だ。資生堂や味の素などの名だたる広告主で、売上高の半分以上が海外のものになっている。その広告コミュニケーションに関わる人は、日本以外の動向に気を配らざるを得ない。国内だけで効果的であれば良い、というのはビジネス視点でもうなずけない。さらに、広告コミュニケーションの乗り物としてのメディアの状況も大きく変化している。テレビや新聞などのマスメディアであれば、日本国内だけを想定することも可能だが、ウェブ施策やYouTube等で視聴される動画などは、海外でも見られることが前提となる。ここでも海外の動向に敏感になることは必須であろう。

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確かに、日本からの応募作には、不利な面も多々ある。

 「カンヌライオンズは欧米基準で運営されていて、日本勢は不利だ」という声もよく耳にする。確かに欧米からの応募作に比べると、日本からの応募作には受賞に関して不利な面もあるので、2つ紹介しよう。

 1つは、日本では有名なブランドであっても、世界的には比較的無名であるケースだ。例えば、ポカリスエットは日本では知らない人がいないが、海外出身の審査員で知っている人は多くないだろう。それに対して、ゲータレードであれば、欧米の人はその商品が何であるかは、みな知っている。そうすると、ポカリスエットの広告コミュニケーションを国際賞に応募する際、“この商品は何でありどんな存在なのか”について、一度説明をしないといけない。こうした賞の審査においては、これはハンデになり得る。

 もう1つは、日本の広告においては、タレントを起用するケースがかなり多い、ということだ(欧米より相当多いと言われている)。タレントを起用する場合、そのタレントがどのように認知されているかということをベースにして、広告コミュニケーションは立案される。しかし、特に欧米出身の審査員にとっては、キムタクだろうが綾瀬はるかだろうがタモリだろうが、それが誰でどんな存在なのかは感じ取れない。そうなると、広告コミュニケーション全体として、効果的とは感じられなくなってしまいがちだ。

 

ローカルからグローバルへ、マイナーからメジャーへというチャンスも。

 そうした状況の中で、カンヌライオンズ応募が応募側にとって大きな意味をもたらす例の1つに、ローカルブランドやマイナーな施策の応募が考えられる。

 日本での知名度や、多額の費用を必要とする有名タレントの起用が、国際賞への応募では有効に働かないということは、逆に、日本での知名度が高くないローカルの企業、あるいは全国的な企業であっても小予算の施策を世に知らしめるチャンスとして、活用可能だということだ。

 特に“ローカルからグローバルへ”という流れは注目すべきものだと思うので、1つの受賞作を紹介しよう。2014年にライオンズヘルス部門グランプリとデザイン部門ゴールドを受賞したMother Book。葵鐘会(ベルネットグループ)という愛知の産婦人科医院が、妊娠初期の段階で分娩の予約を入れた人に配布するビジュアルブックだ。出産までの40週間が美しいビジュアルで1冊にまとめられていて、妊娠週数を重ねるごとに母体のお腹が立体的に膨らんでいく。またその時々の体験や思い出を自由に書き込めるので、世界に1冊だけの妊娠本が作れるようになっている。この医院は東南アジアでの開院を企画していて、初めからカンヌライオンズ等の国際賞受賞を意識した施策だったという。


 

 

Mother Bookの事例

 

 ここまで見てきたように、困難はありながらもカンヌライオンズへの応募には、多くの意味がある。読者の方々もぜひトライすることを、お勧めしたい。


 

 この連載では数回にわたって、「カンヌライオンズ」の歴史と現状について解きほぐしていく。連載が終わる頃には、読者の皆さんそれぞれに、「カンヌライオンズとの正しい付き合い方」が身に付くことを願って!

 

会場近隣は有名な観光スポット

 

筆者の常宿とも言える、家族経営の小さなホテル

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