2020.6.29 share

カンヌライオンズの“そもそも”論からを皆さんにお伝えして行く連載の第5回目をお届けする。今回は、受賞やセミナー登壇での“カンヌの常連”に関して、国、エージェンシー、クライアント、それぞれについてお伝えしていきたい。

(多摩美術大学美術学部教授 佐藤 達郎)

<新型ウィルスの影響で、10月開催へ変更される予定だった2020年のカンヌライオンズは、結局“中止”に。次回開催は2021年6月が予定されています。>

国別というよりは、エージェンシーごとや、クライアントごと。

毎年毎年カンヌライオンズが終わると、“ニッポン、不振!”みたいなことが話題にのぼる。しかし、ニッポンというまとまりで、“好調だった!”“不調だった!”などと毎年一喜一憂する必要があるのだろうか。オリンピックやサッカーW杯などとは異なり、“国の代表”が闘っているのではなく、個々の施策や事例が競っているだけなのだから。

そして、日本がダメダメかと言えば、決してそんなことはない。一時はウェブ施策で大量に高位の賞を獲っていたし、デザイン部門での美しい作品の多さも世界的によく知られるところだ。受賞数にしても10位前後で推移していて、同様に10位くらいで推移しているエントリー数と同レベル。つまり“特にダメ”なわけではない。ちなみに、受賞数のトップ3はほぼアメリカ、イギリス、ブラジルなのだが、エントリー数の多さも同じ3カ国になる。カンヌライオンズのトップにも何度かこの件は直接尋ねているが、「日本はよくやっている。1年ごとの受賞数の多寡はあまり気にするな!」というのがいつもの返答だ。

カンヌライオンズの常連について考えるうえでは、エージェンシーとクライアント、2つの側面から考えるのが正解のようだ。

メガエージェンシーで言えば、BBDOやオグルビー&メイザー。
独立系だと、Droga5とワイデン&ケネディ。

メガエージェンシーの全世界からの受賞ポイントを足し上げる「ネットワーク・オブ・ザ・イヤー」受賞社を見ると、BBDOとオグルビー&メイザーが強い。

他に、独立系の会社を対象とする「インディペンデント・エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」というのもあって、そこでの常連は、Droga5とワイデン&ケネディだ。

今回は、そのうちのワイデン&ケネディに注目してみたい。ダン・ワイデンとデビッド・ケネディがオレゴン州ポートランドで1982年に創設、地元企業であるNIKEのJust Do Itを手掛け、その成長とともに広告界で名を馳せてきた。

カンヌライオンズにおける活躍具合をざっと振り返ってみると、直近では2019年の超話題作「Dream Crazy」(NIKE)や、2018年の「Nothing Beats a Londner」が記憶に新しい。少し遡ると2010年「The Man Your Man Smell Like」(Old Spiceの Bodywash)、2012年の「Thank You Mom」(P&G)、2012年の「Polar Bowl」(Coca Cola)など、時代時代の先端を切り開いた、名作・話題作ぞろいだ。

ワイデン&ケネディが凄いと思うのは、会社がけっこうな規模になっても創業者2人の遺伝子を受け継いだ若手が、世界を舞台に活躍している、ということだ。日本ではあまり見ない例だと感じる。

P&G、ユニリーバなど、世界の名だたるクライアントが大集合。
最近特に目立っているのは、バーガーキング。

カンヌライオンズでは、特にここ数年、クライアント側の積極的な参加が見られる。企業主催のセミナーも多数行われ、特に世界二大広告主と言われるP&Gとユニリーバは、CMOやCEO自らが登壇し、自社の広告戦略/マーケティング戦略について熱く語っている。

そんなクライアントの中でも近年きわめて目立っているのが、バーガーキングだ。ちなみにバーガーキングでは自社の最もスタンダードなハンバーガーをWhopper(ワッパー)と呼ぶ。2019年最大の受賞作「Whopper Detour」、スマートスピーカーの流行をいち早く活用した「Google Home Of The Whopper」(2017)、新聞広告を基点にSNS活用を狙う方法論の草分け的存在である「MacWhopper」(2016)など、話題作ぞろいだ。

米国でのバーガーキングは、日本よりはずっと店舗数も多く、生活の中での存在感もある。だが、マクドナルドに比べると半分ほどの企業規模しかないことから、“マクドナルドへの挑戦をユーモラスに行う”ことを基本にしている。

また、日本でいうところのマーケティング担当取締役とその部下のマーケティング本部長が2人で登壇し、掛け合い漫才のようなテンポの良いトークを繰り広げるセミナーも、毎年多くの示唆に富み、人気が高い。

日本はそこそこ頑張っている、とすでに記したが、願わくば、そう遠くない将来、エージェンシーやクライアントでここに紹介したような“常連”が出てくることを期待したい。


この連載では数回にわたって、「カンヌライオンズ」の歴史と現状について解きほぐしていく。連載が終わる頃には、読者の皆さんそれぞれに、「カンヌライオンズとの正しい付き合い方」が身に付くことを願って!