2026.4.6 share

Q1 審査を通して得た気づき

初の審査員長として、私が最も注力したのは多様な審査員の意見をシナジーへ繋げつつ、「PR部門らしいアワードリスト」を導き出すために、クリエイティビティや結果を判断する際の明確な「補助線」を引き続けることでした。議論の冒頭、全員でPRの本質を「Earned at the Core」と定義し、①earned impact、②cultural context、③gravity of the idea、④multi-stakeholderを必須項目として合意。さらに、業界の基準を引き上げる受賞作を目指すために、「Wise Bravery」と「Creative Ambition」の2点を加えたいという総意をまとめました。これらを議論の最中にいつでも振り返り、立ち返ることができるよう、その場で紙に書いて壁に貼り出し、議論の「北極星」としました。
これにより、議論が単なる主観的な「好き嫌い」や、エントリーシートにある事実確認だけに留まるのを防ぎ「PR部門らしさがあるか」という共通軸を全員が持ち続けられたことで、議論は極めて価値あるものとなりました。最終的に「Communication」を超え、変革のために自ら動く「ブランドの行動」を称えるアワードリストへと結実できたことを誇りに思います。

Q2 審査の中で印象に残った施策作品名とその印象について。

①Vaseline Verified

カンヌライオンズ2025を代表する、すでに世界中で称賛されている作品であるからこそ、「PR部門としてどの側面を評価すべきか」を改めて徹底的に議論しました。SNS上のハックを自社のR&D(研究開発)で検証し、科学的真実を民主化した姿勢は、ブランドと観客の間に生まれた言葉を超えた「本物の共鳴」です。自らの機能で真実を証明する「主体の行動」こそが、ブランドの危機にもなり得るソーシャルのノイズを、信頼されるビジネス資産へと変容させる。この確信に満ちた振る舞いに、私たちは最高峰のPRの姿を見出しました。


②Great Barrier Reef “Lifetime Achievement Award”

「死にゆく犠牲者」という評判が広がり、旅客数が激減した危機の最中にあったグレートバリアリーフ。通常は人物に与えられる国連の賞にサンゴ礁自体をノミネートするという「知的なハック」により、「生きている偉大な存在」であることを世界に証明しました。地元部族や自治体、観光業者といった多様なステークホルダーを巻き込み、戦略的な確信に基づいて実行されたアクション。忘れられつつあった巨大な観光資産に、再び尊厳と活力を取り戻させたナラティブ転換を高く評価しました。


③Back to Kai Tak

ブランドの危機をナラティブの力で乗り越えることを目指し、その圧倒的な「実行力」に深く感銘を受けた一作です。政治的・社会的な緊張が続く香港において、当局との緻密な調整を厭わず「場」を奪還した勇気。困難な状況下でも主体的に動き、社会にポジティブな引力を生み出した実務難易度の極めて高いプロセスに、誠実に行動するPRの真髄を見ました。