2021.3.5 share

 さて、今回は「Spikes Asiaのオンライン版 “The virtual Experience”レポート」をお届けします。The virtual Experienceは、2021年2月22日~2月25日、スパイクス・アジアがオンライン開催されたもの(広告業界系雑誌『キャンペーン誌』との共催)。スパイクス・アジアは、毎年9月にシンガポールで開催されているカンヌライオンズの姉妹イベントです。今回のオンライン版は、上記の期間中に登録を済ましていれば、3月1日現在もオンデマンドで見られる状態でした。

APAC地域色を出しながら、世界のクリエイティビティについて語られています。

 Spikes Asiaは、アジアとオセアニア(オーストラリアやニュージーランドなど)、俗にAPAC(エイパック)と呼ばれるアジア太平洋地域を対象にした広告コミュニケーションのフェスティバルです。このイベントがふだん開催される9月は、筆者にとって秋学期が始まってすぐの時期で都合が合わず、残念ながらリアルで現地を訪れたことはないのですが、これまでも多くの友人知人が参加していました。独自の雰囲気を持ちながらも、シンガポールという比較的日本に近い場所で開催されることから、現地参加をする際にも、カンヌライオンズに比べて日数も短くて済みます。また航空機代などの旅行費用も安く済むことから、カンヌに行くよりはライトな感覚で出かけることが出来るようです。

 オンライン版では、LIONS Liveほど細かいカテゴリーに分けられてはいませんでしたが、4日間で26のセッションが配信されました。内容も、クリエイティブの話から広告主側のCMOセッション、データを主に取り上げたものから動物愛護に関わるものまで、様々でした。また、カンヌライオンズのプレジデント&チェアマンであるフィリップ・トーマス氏、世界最大の広告会社グループWPPのCEOマーク・リード氏、英国発祥の世界的クリエイティブ・エージェンシーBBHのワールドワイドCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)のジョアキム・ボルグストローム氏など世界的著名人が登壇。一方で、APAC地区のDDB SydneyのCCO、ヒューレットパッカードGreater Asia地区のCMO、ワンダーマン・トンプソンAPACのChief Transformation & Strategy Officerなど、主にこの地域で活躍する人々も数多く登壇していました。

 また時間帯としてはシンガポール時間の14時~17時頃となっていて、日本だと15時~18時頃に当たりリアルタイムでも視聴しやすい時間でした。シンガポール時間は「GMT(グリニッジ標準時)+8」と表示され、同時にYour local time(あなたの地域の時間)という形で1時間遅れの日本での配信時間も表示されていたのが、親切な感じがして印象的でした。

具体的にはどんなセッションがあったのか?ここでは、2つの内容を紹介したい。

 では、具体的なセッションについて、2つ取り上げて紹介していきたいと思います。

 ひとつめは、実質的に初日最初のセッションであった「APAC on the world stage」です。この地域のセッションらしく日本のクリエイターも登壇していました。電通の執行役員 兼 CR計画推進センター MD 佐々木康晴さんです。

 セッションのテーマは、一言で言えば、「APAC地域のクリエイティビティは大変に優れているのにカンヌライオンズでの受賞が減っている。国際賞で正しく評価されるには、どうすればいいのか?」といったものです。実際、2009年に全受賞作の16%を記録していたアジアからの応募作が、10年後の2019年には半分の8%に減少していると言います。こうしたテーマをイベント全体の最初に持って来るあたり、地域の国際賞であるSpikes Asiaらしいなぁ、と感じました。

 佐々木さんは2019年にカンヌライオンズのクリエイティブ・データ部門で審査委員長を務めた経験を持つ、グローバルに活躍している方です。モデレーター役のトーマス会長から幾つかの質問が佐々木さんに飛びます(以下、筆者による大意の翻訳)。

(トーマス会長)“英語の壁っていうのは、やっぱりある?”

(佐々木さん)「はい。言語の問題とカルチャーの問題があります。我々日本人は、自分達の文化を西洋人に上手く伝えるのが苦手です。」

(トーマス会長)“ブランドバーパス、つまり世の中をよりよく変えようとする試みが脚光を浴び、時に政治的発信もされる状況だが、それは日本では難しい?”

(佐々木さん)「日本のクライアントは、調和を重んじます。ネガティブな反応を恐れて、勇敢で強い発信がしにくいところはありますね。」

(トーマス会長)“それでもクリエイター達は提案して説得を試みているの?”

(佐々木さん)「もちろん!そして、クライアントも実はそう思っているんです。だからぜひ、アジアなりのパーパスの伝え方を開発したいと思います」

佐々木さんは原稿を見ているそぶりはなく、リアルタイムでしっかりと英語で答えていて、素晴らしい登壇でした。

 

 さて、ふたつめとして、WPPのCEOマーク・リードへのインタビュー「Live Interview and Q&A with Mark Reed」をご紹介しましょう。WPPは世界一の売上を誇る広告会社グループです。傘下には、オグルビー&メイザー、ワンダーマン・トンプソン、AKQAグループ(元のグレイも合流)など錚々たる広告会社が居並んでいます。

『キャンペーン誌』の記者が様々な質問を投げかけ、最後には視聴者からの質問も数個取り上げていました。マーク・リードの発言は、例えば以下のようなものです。 「一方にクリエイティビティ、もう一方にテクノロジーがあって、その両方を活かすことが必要。」「WPPにとっては、ピープル(社員)とパーパスが重要で、特にタレント・チャレンジ(才能ある人をどう雇うか?)が問題だ。」「コロナ禍には良い面もあって、トレーニングが進んだこと。例えば、50人を8週間、Amazonブートキャンプに参加させた。」「クライアント側にもタレント問題はある。今やCMOは簡単な仕事じゃない。ブランドについて知っていて、売上を上げ、テクノロジーとデータを理解し、ブランドセーフティに気を配り、グーグルとも向き合わなければならない。そうしたことをサポートする人材を我々は用意する必要がある。」

 そうしたやり取りの中、視聴者からの最後の質問は、“モンゴルのローカル・クリエイティブ・エージェンシーを買う気はないか?”という内容。マーク・リードの答えは、「今のところのプライオリティは低いが、もちろん可能性はある。なんなら、メールをくれ!」というもの。なんとなく和んで、終了しました。


※さて、LIONS Liveの次のバージョンが3月1日(月)~3月5日(金)に開催されます。こちらについても、レポートしていこうと思います。お楽しみに!