2020.7.8 share

広告界の皆さん、こんにちは!産業界の皆さんも、こんにちは!多摩美術大学で広告論 / マーケティング論を教えている佐藤達郎と言います。私は長年広告会社のクリエイティブ部門に勤務、日本代表審査員も経験し、10年前に大学教授になってからも、カンヌライオンズを主な対象として(今まで16回現地参加しています!)、広告コミュニケーションのトレンドについて研究を続けています。そんな私が、LIONS Live(カンヌライオンズ2020のオンライン版)の紹介を行います。なおLIONS Liveの各セミナーは、会期が終了しても、しばらくの間はオンデマンドで録画を見られるようなので、興味がある方は、ぜひ覗いてみてください。

【カンヌライオンズの広告界での位置づけ】

今年はコロナ禍の影響で中止になったカンヌライオンズ。まずは、あまりご存じでない方のために、その広告界での位置づけについて、簡単に述べておきましょう。
カンヌライオンズは昨年2019年が66回目。“3大広告賞”という位置づけを越えて、「1+4」(1つのカンヌライオンズと、その他4つの重要国際広告賞)と称されるほど、圧倒的に重要視されるイベントです。
受賞価値の高さはもちろんのこと、300にものぼるセミナーで語られることも、その後の広告界 / マーケティング界に大きな影響力を持つと言われています。参加者もいわゆるクリエイターにとどまらず、産業界からも多くのCMOなどが登壇。毎年世界から15,000人程度、日本からも500人ほどが参加し、“巨大な語り場”としての機能も持つと言うことが出来るでしょう。

【LIONS Liveは、カンヌライオンズ2020オンライン版】

そのカンヌライオンズが2020年はコロナ禍の影響で中止に。代わりに、LIONS Liveというオンライン・イベントの開催が発表されました。もともと開催予定だった6月22日(月)~6月26日(金)の5日間にわたって毎日数時間の配信が行われるとのこと(ちなみにリアルのカンヌライオンズは毎年同時期、6月下旬に開催されています)。しかもこのLIONS Liveは無料で誰もがアクセスできると言います。実際にカンヌライオンズに出かけるとなると、登録料(参加料)、航空機代、宿泊費とかなりの出費が必要になるので、ある意味では幅広い人がカンヌライオンズに触れるチャンスとも考えられます。
広告界ではカンヌライオンズで結ばれた“カンヌ仲間”とでも呼べそうなゆるやかなコミュニティがあるのですが、そこの仲間たちは皆、「よし、見てみなきゃ!」と意気込んでいました。その仲間たちには、「いつもならこの時期カンヌにいたのに、日本にいるなんて信じられない」といったマニアックな人も少なくなく、この1週間は他の予定を遠ざけてでもPCの前に座る決意をしていました。私もそんな一人です。

【LIONS Liveでも感じられた、カンヌライオンズのエッセンス】

大学教授になってからも私がカンヌライオンズに参加し続けている理由の一つは、広告界の「イマ」の“生の”息吹を感じるためです。グランプリ受賞作やゴールド受賞作の事例ビデオを眺め、贈賞式での他の観客の反応を目の当たりにし、セミナーで聞こえて来るキーワードに耳を澄まし、スピーカーや参加者たちの表情やファッションから伝わって来る“業界人”の傾向を把握しながら。。。。
LIONS Liveでは、(司会者が取り上げるQ&A以外は)参加者の存在は感じられず、審査がなされていないので受賞作の事例ビデオから学ぶことも出来なかったけれど、エージェンシーのクリエイティブ、クライアントのCMO、2021年予定されている審査委員長、フェイスブック等ネット企業の幹部など、様々なタイプのスピーカーの語ることを通じて、いま広告界が(あるいはCMOを通じて産業界が)、何に関心を持ち、どんなことに気を遣い、どんなキーワードが語られているのかに触れることは出来ました。カンヌライオンズのエッセンスの一定のものは、LIONS Liveでも手に入れられたと言えるでしょう。

【リアルなカンヌにはあって、LIONS Liveには無かったもの】

しかし、「LIONS Liveには無いもの」も確実にありました。それは、“場所が持つオーラ”と、“参加者との熱い語らい”でしょう。
カンヌという場所には、なんらかのオーラがあると思います。なんとなくいつものカンヌの風景や乾いた気持ちの良い風を頭に思い浮かべながらPC前に座った私は、肩透かしを食わされたという印象を持ちました。画面のどこにも、カンヌの風景は出て来ません。会場近くでカンヌライオンズの旗がはためくのを見て乾いた風を感じることも出来ませんでした。もちろん所詮はオンライン、本当の風に吹かれることはあり得ません。しかし、セミナーとセミナーの間の時間とかに、少しでもカンヌ現地の動画など流してくれたら、良かったのになぁと感じました。これは、日本事務局を通じて、今後のLIONS Liveへ申し入れたいと思っています。
それと、参加者との熱い語らいも当然ながら出来ませんでした。リアルのカンヌライオンズでは、そこかしこに参加者の熱気があふれていて、昼間少し休憩してお茶を飲みながら、夜は酒を酌み交わしながら、広告コミュニケーションの傾向について熱く語り合うことが、大きな魅力の一つとなっています。難しいのかもしれないけれど、せめてオンラインでのチャットルーム(日本語限定のものもあっていいと思う)など開催されたらいいのに、との感想も持ちました。
※さて、LIONS Liveの具体的な内容については、この後何回かに分けて、報告して行こうと思います。お楽しみに!