2021.3.8 share

カンヌライオンズの“そもそも”論からを皆さんにお伝えしていく連載の第10回目をお届けする。ここ数年、カンヌライオンズでは、広告会社以外の様々なプレーヤーが活躍を始めている。なかでもコンサルティング会社の勢いは、とても目立つ。果たして、その実態とは?

(多摩美術大学美術学部教授 佐藤 達郎)

カンヌライオンズで存在感を増すための、3つの方法。

カンヌライオンズには、世界中から、広告界/マーケティング界で活躍している人達が集まってくる。この場で存在感を増すことは、中長期的に見れば、十分に実際のビジネスへの貢献に繋がり得る。

では、ここで存在感を増すためには、どうすれば良いのか? 大きく分けて、3つが考えられる。1番目は、賞の受賞である。金銀銅そしてグランプリ。高位の賞を受賞すれば、勢いのあるプレーヤーとして自ずと認められる。2番目は、セミナーの開催だ。数百も開催されるカンヌライオンズのセミナーは大変に充実しており、参加者達の視聴意向も高い。多くの人の印象に残るセミナーを開催できれば、知見の高いプレーヤーとして記憶されるだろう。電通も博報堂も、何年にもわたってセミナーを開催している。そして3番目は、看板を掲出したりイベントスペースを提供したりすることだ。

3番目→2番目→1番目の順で、不確実性のハードルは上がる。3番目の“看板掲出”等はお金がかかるが、基本的に内容は問われない。賞レースに参加するような立場ではないプラットフォーマー(ツイッターやフェイスブック、そしてグーグルなど)は、ビーチ沿いに自らを紹介し、ビジネスパートナーを招くイベントスペースを提供している。ピンタレストやHULUがイベントスペースを設けることもある。

ツイッター社のビーチサイドイベント会場

2番目の“セミナー”は、お金を払えば枠がもらえるといった類のものではないと聞いている。カンヌライオンズ運営側としても大事な大事なコンテンツの1つなので、参加者が満足できそうだと判断しないと開催させてもらえない。そして1番目の“賞獲り”は、これはもう、チャレンジし続けて、幸運にも恵まれて受賞に至るしかない。カンヌライオンズの審査の公平性には、定評がある。実際に優れた広告コミュニケーションを実施して応募し、審査員達の判断を待つしかないのだ。

当初、セミナーや巨大看板で、存在感を増大させたコンサル。

筆者の記憶では、会場入り口近くの巨大看板に、コンサルティング会社の社名とメッセージが見られるようになったのは、2017年頃からだ。それまでは、フィルム制作会社だったり、ある時はスナップチャットなどの社名やマークが掲載されたりしていた。

最初に目についたのは、IBMiX(IBM社系列のコンサルティング会社)の真っ黒な巨大看板だった。次に現れたのが、アクセンチュア・インタラクティブのもので、「より素晴らしい体験が、ここから始まる。」とのメッセージが掲出されていた。“ここ”とは、カンヌライオンズとアクセンチュア・インタラクティブの両方を意味しているのだろう。

IBMiXの巨大看板

アクセンチュア・インタラクティブの巨大看板

これらの会社に加えて、ボストンコンサルティングもセミナーを開催していた。ボストンコンサルティングのセミナーは、エージェンシー・クライアント・リレーションシップ(広告会社と広告主の関係はどうあるべきか?)に関するものだったと、記憶している。

これらはちょうど、日本の広告関連の雑誌や記事で「コンサルの侵攻」が取り上げられ始めた頃だ。当時、アメリカの“デジタルエージェンシー・ランキング”トップ10のうちの数社がコンサル系で占められたことが、センセーショナルに語られた。筆者もカンヌライオンズでのコンサル会社の様々な施策を目の当たりにして、「おお、コンサルは広告ビジネスに参戦する気、満々だな」との感想を抱いたのを、よく覚えている。

こうした施策に加えて、ついには賞レースに参戦するコンサルタント会社も現れ始めた。

徐々に賞レースにも参戦、グランプリ受賞も!

こうした中で、広告クリエイティブの分野に進出し、賞獲りレースにも参戦してきた一番手が、アクセンチュア・インタラクティブだ。

他のコンサルも多かれ少なかれ行っていたが、アクセンチュア・インタラクティブは、著名なクリエイティブ・エージェンシーを買収し、次々と傘下に収めていった。そう書くと、コンサルがお金の力にものを言わせて“クリエイティブ”を買い漁っているかのような印象を持つかもしれないが、実際はどうも違うらしい。このコンサル会社は、傘下に入ったクリエイティブ・エージェンシーのカルチャーや自主性を大切にし、だからこそうまく機能すると耳にすることが多い。

2018年には、ついにアクセンチュア・インタラクティブ傘下のデジタル・エージェンシーRothco(ロスコ)の「JFK Unsilenced(The Times UK & IRELAND)」がクリエイティブ・データ部門のグランプリを受賞する。1963年にダラスで銃弾を受けて倒れたJ・F・ケネディが当日話す予定だった演説を、入手可能なケネディのスピーチを収集し、AIを使って再現したという応募作だ。

「JFK UNSILENCED」事例ビデオ

さらに翌2019年にアクセンチュア・インタラクティブは、世界に名だたるクリエイティブ・エージェンシー“Droga 5(ドラガ・ファイブ)”も傘下に収め、カンヌライオンズでは、Droga 5創設者デイビッド・ドラガと、アクセンチュア・インタラクティブCEOの対談セミナーまで開催してみせる。しかもその年のFilm部門とFilm Craft部門のグランプリは、このDroga 5が手掛けた「The Truth is Worth it(NY Times)」が受賞する。さらに、こうした施策も功を奏してか、NY Timesのビジネスは、新聞界での一人勝ちと言われるほどの成果を挙げる。

「The Truth is Worth it」の5本の動画のうちの1本

こうして見ると、広告界も「コンサルの侵攻」などと警戒しているだけの時期は過ぎたのかもしれない。競争も協業も共創も含めて、新たな関係性の模索が始まっている。


この連載では数回にわたって、「カンヌライオンズ」の歴史と現状について解きほぐしていく。連載が終わる頃には、読者の皆さんそれぞれに、「カンヌライオンズとの正しい付き合い方」が身に付くことを願って!