【イチからわかる カンヌライオンズ】 ⑧日本勢は苦戦続きなのか? いえいえ、なかなかに頑張っています。

 カンヌライオンズの“そもそも”論からを皆さんにお伝えしていく連載の第8回目をお届けする。今回と次回の2回にわたって、カンヌライオンズにおける日本勢の動向について取り上げたい。毎年のように“ニッポン、不振”と報じられがちな印象があるが、実際のところはどうなのかを振り返り、さらに日本からカンヌライオンズに応募する意味合いも考えていきたい。

(多摩美術大学美術学部教授 佐藤 達郎)

日本勢による過去の名作、グランプリ受賞作の数々。

 実は日本からの応募作の中には、その時代時代に燦然(さんぜん)と輝く“名作”と呼んで差し支えないような事例が少なくない。少し遡れば2008年サイバー部門とチタニウム部門でグランプリを受賞した「Uniqlock(ユニクロ)」は、当時「ブランデッド・ユーティリティ(ブランドが提供する役に立つもの)」と言われた最新トレンドの最高峰として、名高い受賞作だ。ちなみにチタニウム部門は“真に革新的な施策”を表彰する部門で、グランプリはその年の“ベスト・オブ・ベスト”と言われる。またデジタル施策を表彰するサイバー部門はこの頃、“日本が強い部門”と見られていた。

 他にもここ数年のグランプリ受賞作だけを見ても、14年の「Sound of Honda(ホンダ・インターナビ)」/チタニウム部門、「Mother Book(葵鐘会)」/ライオンズヘルス部門、16年の「Life is Electric(パナソニック)」/デザイン部門、17年の「The Family Way(リクルートライフスタイル)」/モバイル部門がある。

 

UNIQULOCK

 

Life is Electric

 

The Family Way

 

 ここでは1つだけ、Sound of Honda(ホンダ・インターナビ)の内容について紹介しよう。このウェブ施策は、アイルトン・セナ氏が1989年に鈴鹿サーキットで樹立したF1世界最速ラップを題材にしている。当時ホンダが開発した“車載センサーからリアルタイムでデータを収集するシステム”に保存されていた走行データを解析、現代の最先端技術を駆使し、エンジン音と光を用いて“あの日のセナの走り”をネット上で感動的に蘇らせた。

 

Sound of Honda

 

数字で見ると“日本勢の成績”はどうなのだろうか?

 このように、見ようによっては“輝かしい”戦績があるにもかかわらず、なぜ、“ニッポン、不振”と言われがちなのだろうか? 日本からの応募作は、実際に振るわないのだろうか?

 2014~18年の国別の応募総数と銅賞以上の受賞作数のデータが手元にあるので、数字の面から少し見てみよう。このデータはカンヌライオンズ事務局によって集計されたものだ。なお受賞作数は、同じ事例が幾つかの部門やサブカテゴリ―で受賞すれば重複してカウントされる。例えば14年Sound of Hondaは、8つの部門で15の賞を受賞した。

 この期間、国別受賞作のトップはずっと米国である。2位は英国が多く、年によってはブラジルがランクインする。トップ3はだいたいこの3カ国だ。応募総数はどうだろう? こちらもダントツが米国である。2位はだいたいが英国、3位はおおむねブラジルだ。ざっくり言えばつまり、応募数の多いところが受賞数も多いのである。

 日本の数字を見てみると、応募数で7位、受賞数では6位~9位くらいだが、18年は10位、19年は11位となっていて、確かに少し低調気味ではある。銅賞以上の受賞率で見ると、全体平均でおおむね3%程度と言われているが、日本については、この期間で一番高い14年で約3.7%、一番低い15年で約2.0%であり、全体平均と大差はない。

夜の街を歩くと日本人の知人にも遭遇する。

 

日本は一定の存在感を示せているし、リスペクトもされている!?

 筆者は毎年のように、カンヌライオンズの会長に直接話を聞く機会を得て来た。前会長のテリー・サベージ氏には何度も話を聞いているし、現会長のフィリップ・トーマス氏にも昨年インタビューをした。その中で日本の“成績”の話も聞いてみているのだが、2人の話を総合すると、「日本はよくやっている」「一定の存在感はあるよ」「応募作に独特のものがありリスペクトもされている」との見解だ。

 

フィリップ・トーマス会長と筆者(2019年)。

 

 2人に賛成だ。良い年もあれば悪い年もあるが、おおむね“よくやっている”。もっと言うと、受賞数について「日本という国単位」で重要視することに関して、筆者は否定的だ。

 オリンピックであれば、国別に出場できる選手数は決まっていて、選手は選ばれて“日本代表”として出場する。そうであれば、国別のメダルの数にはそれなりの意味があるだろう。しかし、カンヌライオンズへの出品で言えば、そこに制限はないわけで、国別の受賞数の年ごとの多寡は、一喜一憂すべきことではない。

 昨年現地での勉強会でも、“日本からの受賞が少なく、もう応募する意味がないのではないか?”といった極端に悲観的な意見も耳にした。いや違うよ、と筆者は確信している。次回は、過去の受賞作を幾つか紹介しつつ、日本からカンヌライオンズに応募する意味合いも含めて考えていきたい。


 この連載では数回にわたって、「カンヌライオンズ」の歴史と現状について解きほぐしていく。連載が終わる頃には、読者の皆さんそれぞれに、「カンヌライオンズとの正しい付き合い方」が身に付くことを願って!

現地で開催されている日本人向け勉強会は、熱気に溢れている。

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