【イチからわかる カンヌライオンズ】 ④広告賞の価値は、審査員で決まる。受賞作は、 どこの誰が、どうやって選んでいるのか?

 カンヌライオンズの“そもそも”論からを皆さんにお伝えして行く連載の第4回目をお届けする。
今回は、いったい“誰がどうやって選んでるの?”という審査員の件にフォーカスして、解説していきたい。

(多摩美術大学美術学部教授 佐藤 達郎)

少し古い話だが、2004年フィルム部門日本代表審査員の経験談から。
 皆さんは、カンヌライオンズの賞を誰がどんな風に審査しているかについて、どれくらいご存じだろうか?

 審査員の話を紐解くに当たって、まず、筆者の経験談から始めたいと思う。筆者は、2004年にカンヌライオンズ・フィルム部門の審査員を務める機会を得た。その時の部門数は7部門。日本から審査員が輩出されない部門もあったので、日本人審査員は全部で4名ほどだったと記憶している。審査員の選出は基本的に、カンヌ運営事務局の国ごとのレップ(代理をする会社)が行う。その年、なぜ筆者が選ばれたかというと、2つのポイントがある。それは、「当時所属していた会社でしかるべきポジションで活躍できていたこと」×「そうしたポジションにいる制作者の中では英語が堪能で国際感覚を持っていたこと」であろう。

 その時、立派な「カンヌ審査員証明書」みたいなものを渡されたことを今も覚えている。それ以前も海外でクリエイターに会う機会が少なくなかったのだけれど、その際誰かを紹介される時、「彼はカンヌラオインズの審査経験がある」という事実はリスペクトの対象になっていた。そうしたことを、「クリエイターの箔付けの道具」だとネガティブに受け取ることもできるが、カンヌライオンズの審査員を経験することがそれだけのプレステージを持つことは、賞自体の価値を高めることにつながっており、筆者自身は良いことだと思っている。

 2004年フィルム部門審査員は、世界各国から22人。応募総数の7%程度に当たるショートリスト(入賞)選出まではデジタル機器による点数で選び、銅賞以上(3%程度)は、挙手とディスカッションという大変にアナログなプロセスで決められていた。こうしたプロセスは2019年現在でも、あまり変わっていないようだ。

 ディスカッションは大変に重要で、そこで闘わされた論点は、各審査員のインタビューなどで業界として共有されるものとなり、次の世論を形づくっていくものとなる。

 

大きな意味で“効果”の視点から選出。
そして、“新機軸”を大事にするのがカンヌ。

 「単に“面白いとか美しいもの”を選んでいるのではないか?」と漠然と思っている方が多いようなのだが、ことカンヌライオンズに限って言えば、それはまったく違う。審査員は、広告ビジネス/マーケティング・ビジネスで日々闘っている人ばかりなので、“効果があるかないか?”“効果がありそうかなさそうか?”“今後の効果的な施策のヒントになり得るか?”という視点が基本となる。必ずしもデータに基づくわけではない部門も多いのだが、プロ中のプロの判断として、そのような“効果”の視点から選ばれている。

 「広告会社にいる審査員が、広告会社の作品を選ぶのはいかがなものか?」という意見を拝聴したこともあるが、むしろ、評論家ではなく“ライバル同士が選び合う”ということにこそ意味があり、そうすることで最もビビッドな価値を持つ事例が選ばれると言える。アカデミックな論文審査が同様のシステムで、“ピア・レビュー(仲間による審査)”と呼ばれる。

 またカンヌライオンズの特徴としては、「伝統的方法を極めた事例」よりも「新たな可能性を秘めた事例」を選ぶ傾向にある。別の言い方をすると、この業界に、このビジネスに、引いてはこの世の中に、変化をもたらすような事例かどうか? というポイントが、高位の賞になればなるほど重要視される。

 何故そうなのかと言えば、審査員たちが、「ここで選ばれた事例は今後の業界の指針になる」ということを、強く意識しているからだと思う。

 

今も昔も、業界や会社を代表する面々。だが多部門化に伴い、顔ぶれにも変化が
 審査員の肩書をざっと見てみると、President(社長)やCEO、CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)あるいはFounder(創業者)やChairman/Chairwoman(会長)と、それぞれの会社のトップ層であることが分かる。とはいえ、そういう肩書から日本でイメージされる老境に達した審査員はむしろ少なく、40代・50代の現役プレーヤーを兼ねている印象の人が多い。

 古くからあるフィルム部門やアウトドア部門などでは、判断はいわゆる“プロフェッショナル・ジャッジメント”に任されていて、明確な審査基準は示されない。それに対して比較的新しく設立された、統合型コミュニケーション系の部門では、審査ポイントのパーセンテージが応募者にもあらかじめ示されている。

 例えば、ダイレクト部門では「アイデア30%、戦略20%、実施・仕上がり20%、インパクト・結果30%」、PR部門では「アイデア20%、戦略30%、実施・仕上がり20%、インパクト・結果30%」、クリエイティブ・ストラテジー部門では「ビジネスチャレンジ/ブランドチャレンジの解釈30%、インサイト/ブレークスルー思考30%、クリエイティブ・アイディア20%、成果・結果20%」などとなっている。

 また、以前は「広告会社のクリエイター」がほとんどであったが、多部門化に伴って今では、審査員の顔ぶれにも大きな変化が見られている。例えば、グーグルなどプラットフォーム系のメンバーや、アクセンチュアなどのコンサル系、そしてクラフト(表現技術)分野では演出家やプロデューサーも含まれるようになってきた。そういう意味でもカンヌライオンズは、変化の過程にあると言えるだろう。


 この連載では数回にわたって、「カンヌライオンズ」の歴史と現状について解きほぐしていく。連載が終わる頃には、読者の皆さんそれぞれに、「カンヌライオンズとの正しい付き合い方」が身に付くことを願って!

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