カンヌライオンズ セミナー 採録リポート Vol.3

パネルディスカッション:「企業活動における創造的コミュニケーションの重要性」

  • 木村健太郎氏(博報堂 アジアパシフィックチーフクリエイティブオフィサー兼グローバル統合ソリューション局長)
  • 本田哲也氏(PRストラテジスト/本田事務所代表)
  • 小助川雅人氏(資生堂 クリエイティブ本部チーフクリエイティブディレクター)
    • 木村 今日はカンヌライオンズへの参加経験が多い我々3人で、カンヌとは何かを存分に語っていきたいと思います。
       私は2004年からカンヌに参加していますが、この15年の間に大きな流れの変化がありました。元々広告のアワードなので賞レースに関心が集まるのですが、その一方でアートスクールのようなワークショップがあったり、経営学修士(MBA)のようなセミナーがあって最先端の経営理論が議論されたり、ここ何年かはクリエーティブの領域を超えていろいろな要素が組み合わさっています。
       元々は「カンヌライオンズ・インターナショナル・アドバタイジング・フェスティバル」という名前でしたが、11年にアドバタイジングがクリエイティビティに変わり、現在の名前になりました。それが大きな転換点になっています。それまではアイデアの品評会といった色合いが強かったのですが、マーケティングやマネジメントの課題解決の博覧会へと変わっていきました。

       このカンヌの潮流を広告会社の観点で言うと、これまでは広告の中に狭義のクリエーティブやマーケティング、メディアがあるという構造でしたが、現在はクリエイティビティ、つまり広義の創造性が軸としてあって、その中に広告やビジネス、サービスがあるという発想に変わっています。これは、今後広告会社はアドエージェンシーからクリエーティブカンパニーに変わっていかなければいけないことを意味していると思っています。
       このあたり、PR会社や事業会社の視点からはどのように見ていますか?


      クリーティブだけでなく、ビジネスと密接に関連

      本田 私の専門はPRですが、カンヌは元々広告の祭典なのでPR業界はあまり関係ないというスタンスでした。しかし先ほどの話でも出たように、広告やPRはあくまで手法の話であって、もっと大きな流れとして「PURPOSE」を重視するようになっています。
       もう一つの重要なキーワードに「Authenticity」があります。直訳すると「正当性」といった意味になりますが、そもそもPR活動とは企業がやっていることをファクトベースで広報することで、やっていないことを盛ってPRすると炎上のもとになります。ここでいう「Authenticity」とは活動の正当性、なぜその企業、そのブランドがその活動をやるのかという必然性が非常に重要になってきます。

      小助川 カンヌライオンズというのはクリエーティブの祭典と思われがちですが、ビジネスと密接に結びついていて、マーケティングの事例の見本市みたいなところです。今のグローバルの潮流を効率的に知ることができます。
       「PURPOSE」を事業会社の視点で見ると、「ESG投資」と「ミレニアル以降の世代の意識変化」という観点が挙げられます。環境や社会に対してきちんとケアしてサステナビリティーを保っている会社が、結果的には投資リターンが多いという事例が増えています。そしてミレニアル以降の世代の意識は企業やブランドがどのような社会貢献をしているのか、という考えにシフトしています。単にプロダクトで差別化しても好意度や好感度アップにはつながらず、社会問題への対応やサステナビリティーに企業として深くかかわっていく必要があると感じます。

       



      カンヌのキーワードは企業経営のキーワードと一致 

      木村 ここ15年くらい遡ってカンヌの流れを見ていきたいと思います。年ごとのカンヌのキーワードを追っていくと、そのままビジネスやマネジメントのキーワードと一致していることがわかります。
       04年頃は「企業の社会的責任(CSR)」が全盛期で、NECの「ecotonoha」などのキャンペーンが高い評価を受けました。その延長線上に「SOCIAL GOOD」という言葉が出てきたのが07年頃です。水を1杯飲むとアフリカに1㌦寄付される仕組みや、豪シドニーの町で1時間みんなで電気を消そうというキャンペーン、広告看板の上で設置したソーラーパネルで余った電気を学校の給食設備に使うといったような「SOCIAL GOOD」、社会に良いことを発想の中心にすえたキャンペーンが高い評価を受けました。

       その後、12年頃には「CSV」、クリエーティング・シェアード・バリューという言葉が出てきます。CSRと混同しがちですが、CSRは副業における社会貢献であるのに対して、CSVは本業における社会貢献を意味します。かつては企業から顧客への一方通行だったものが、両者Win-Winの関係になることの必要性が重視され、さらに顧客、企業、社会の三者にとって良い関係を結ばなければならないという考え方に変化しました。これがCSVです。
       この頃から、「シェアード・バリューとはいったい何だろう」という議論につながっていきます。14年にチタニウム部門という、業界を一歩前進させる革新性を評価する部門の審査をしたのですが、そこでは作品を審査するだけではなく、全世界で取り組むべき共通の課題とは何なのかを徹底的に議論して、その共通課題を解決する仕事に賞を与える結果になりました。共通課題とは具体的に「戦争犯罪」「貧困格差」「差別偏見」「病気障がい」「環境・エネルギー」の5つです。
       「持続可能な開発目標(SDGs)」が出てきたのが15年。国連がサステナブルな社会のために取り組まなければいけないテーマを17決めました。

       その後に「PURPOSE」「BRAND PURPOSE」というキーワードが出てきます。CSVがイシューやテーマの議論だとすると、PURPOSEはその上に位置する概念、企業の製品やサービスを超えた社会における存在価値と解釈しています。コンサルタントのサイモン・シネック氏が世界最大級の講演会「TED」で行った有名なスピーチで「WHATやHOWではなく、真ん中にあるWHYから発想しないと企業は生き残れない」と語ったのもこの頃でした。
       PURPOSEが最初に有名になったのはP&Gの「Like A Girl」という生理用品のキャンペーンです。これは女性を物理的な制約から解放するというプロダクトのバリューを超えて、女子は思春期を超えたら女らしく振る舞わなければいけないという思い込み、偏見、固定観念などの精神的な制約からも解放しようと踏み込み、非常に高く評価されました。

       一番新しいところで言うと、昨年はPURPOSEの延長線上の言葉として「ブランド・アクティビズム」というキーワードが多くのセミナーで出ていました。僕は「闘うブランディング」と呼んでいますが、企業、ブランドが闘うべき対象を明確にすることで、企業としてのPURPOSEが一層際立つという考え方です。NIKEの「Dream Crazy」も、マイノリティーに対する差別を黙殺するポピュリズムに対して闘うことによって、NIKEの「Just Do It」という言葉が持つ、信念に従って行動する勇気を際立たせていると解釈できると思います。

       もう一つ、ニューヨーク・タイムズの命をかけたジャーナリズムを映像化したキャンペーンがあります。これは都合の悪いジャーナリズムをフェイクニュースといってしまうトランプ政権に対して闘うことで、「Truth」の重さと自分たちの存在意義を際立たせている事例です。


      単なる社会貢献ではなく、ビジネスにつなげる視点が重要

      本田 3~5年くらいの周期でキーワードが進化していると感じます。ただ、社会的課題といっても、何百もあるわけではなく、同じようなテーマに集約されてきます。その中でなぜ我が社なのかという必然性と思想が大事になってきます。
       昨今のカンヌで最も取り上げられているテーマが「ジェンダー・イコーリティー」ですが、これも、なぜやるのかという必然性が評価を左右しているようです。
       例えばアリエールという洗剤の「Share The Load」というインドでのキャンペーンです。インドは男性がほとんど家事をやらないので、まずお父さんたちに洗濯をやらせる企画ですが、それが子どもの教育にもつながっていて、男の子が小さいときから洗濯に参加する流れを作っています。洗濯洗剤を扱う会社ならではのジェンダー・イコーリティーの発想です。

       また、これも有名な「Fearless Girl」は17年のカンヌのグランプリに輝きました。米NYのウォール街にある、株価上昇の象徴であり男性の象徴であるチャージング・ブルの銅像の前に、それにまったく怯むことなく立ち向かう少女の像を建てたステート・ストリートという投資会社のキャンペーンです。金融業界はどこの国でも男社会ですが、ステート・ストリートは女性役員の数を企業の評価基準にするなど世の中に先駆けてきた会社で、金融業界においてジェンダー・イコーリティーのキャンペーンは自分たちがやってこそ意味があるという強い思いが表れていました。
       これらの例にあるとおり、ジェンダー・イコーリティーに取り組む企業は多いと思いますが、なぜあなたたちがこれをやるのかという問いに対してしっかり答えられることが重要で、さらにこれらの企業は自分たちのビジネスの軸をずらしていません。本業に流れるDNAの中でこれをやるということが重要だと思います。

      木村 そこは重要な視点ですね。例えば昨年受賞した障がい者向けのキャンペーンも、単に社会貢献だけではなく、そこにはっきりとしたマーケットがあり、それを取りに行くというビジネスの本筋が基盤にあります。これをやることで自分たちのビジネスも拡大するという枠組みが大事です。

      小助川 クリエーティブを検討するときには、課題に対して化粧品はどのように貢献できるのか、という問いかけから始めます。PURPOSEを明確にして化粧品という業種の本質をクリエイティビティに結び付けられれば共感がされやすくなります。また、顧客や社会だけでなく、従業員のモチベーションアップにもつながります。そのような議論のきっかけになることがカンヌの面白いところです。
       去年見て面白かった例を挙げると、ドミノピザの「Paving for Pizza」が好きですね。これはピザを時間通りにおいしいまま届けるために、道路の凸凹状況をユーザーから集めて自治体に話を通し、自ら舗装していくというものですが、ファクトをもとにどうPRするか、どのようにSNS(交流サイト)で拡散するかという流れがとても上手いと感じました。このようなものはエンターテインメント性がないと広がらないのですが、皆が楽しみながら社会貢献できるというアプローチがとてもよかったです。

       もう一つ印象的だったのはジョンソン&ジョンソン。1980年代にエイズが流行ったときのサンフランシスコの病棟での看護師さんの努力を表したドキュメンタリーで、「タッチアンドケア」というJ&J社の原点、活動の本質をもう一度問い直したキャンペーンが印象に残りました。


      ロゼワインを片手に、刺激的なインプットを語り合う場

      木村 最後に、これからカンヌに行こうとしている方々に、お二人からカンヌを楽しむコツを一言ずついただけますか。

      本田 ロゼワインがめちゃめちゃおいしいので行ったら絶対に飲んでください(笑い)。
       やっぱりこれだけ世界中からいろいろな領域の方が集まる機会はめったにないと思います。例えば日本のPR業界の人間がブラジルのクリエーターと会って話をすることは普通ないですよね。このような人たちと交流することは非常に刺激的で、日本に帰ってから仕事に必ず良いフィードバックがあると思います。

      小助川 カンヌに行くのは高いですが、〝ビフォーカンヌ〞と〝アフターカンヌ〞で絶対に変わるので、投資と考えたほうがいいと思います。それから、単に見に行くのと、エントリーして行くのとではやはり気持ちの入り方が違うので、できればエントリーまでされることをお勧めします。

      木村 僕の大好きな言葉に「ファーストカンヌは二度と来ない」という言葉がありまして、自分の場合でも最初のカンヌはずっと高いテンションで朝から晩まで2000本くらいCMを見て、それを全部ノートにとっていました。とても良い経験です。
       楽しむコツとしてお勧めするのは、何かセミナーを聴いたり作品を見た後に、必ずそれについて一緒に行った人と語らうことです。カンヌは語り合うのにとても適した場所です。ご飯もおいしいし、天候もいいし、ロゼワインもある。何かインプットしたり、刺激を受けた後で、同じ体験をした人同士で情報交換したくなります。それが全然違う国の人だったりすると、さらにいろいろな視点があって面白いと思います。
      「ファーストカンヌ」を体験される方は、ぜひロゼワインのグラス片手に語り合っていただければと思います。

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